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三年むらさき十五年

村松 友視(直木賞作家)

 十五年前、私はヤマホの「三年むらさき」に出会った。そのやわらかい、あっさりとした醤油を味わって、まず私は醤油さしに凝り始めた。形から入る性格ゆえでもあるが、何となく醤油に威儀さ正すというか、敬意さもって接するというか、そんな気分にさせられたからだった。酒呑みが、徳利や片口に凝るのに似ているような気分だったかもしれない。小ぶりで、切れのよい醤油さし・・・探そうとするとなかなか見つからなかったが、金沢で求めた九谷焼の醤油さしが気に入って、ずっとそれを使っている。自己主張の目立つものは不似合だし、切れのわるい醤油さしは料理に向う気持ちの弾みを殺ぐ。醤油さしをもち上げたときの手ざわりや、小皿に醤油を滴らせるときの快感で、刺身や焼海苔や漬物や豆腐の味がちがってくる。ものは器で食わせるなんぞと申しますが・・・と落語のフレーズにもあるくらいだが、その中に醤油さしが入っているという発見には、我ながらおどろいた。

 好みの醤油さしを使い始めるとともすれば食膳にならぶ料理の借景くらいにしか感じなかった醤油さしに、にわかに光が当ったような感じがした。そうなると、やはりその醤油さしに入れる醤油に無頓着というわけにはいかなくなる。私は、「三年むらさき」と九谷焼の醤油さしの組合せを、この十五年のあいだ楽しんできたことになる。

 ひとつの醤油との出会いが、醤油さし探しの旅を生んで、「三年むらさき」の絶妙のパートナーを手に入れた。この二つが揃ったとなれば、それを用いる料理や素材の吟味にも気がいかざるを得ない。何だか普通とは逆のコースをたどっているような気もするが、こうやって私はようやく、食膳の景色をととのえたのである。


品名:濃口醤油(本醸造) 原材料:大豆・小麦・食塩 内容量:900m
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       三年むらさき讃

        旅行の荷物は少ないに越したことはないーとは思
        いつつも、またまた私のバッグは相当な重さになっ
        てしまう。“三年むらさき”のせいなのだ。
         私は、どこへ行ってもその土地の食材を使って何
        か作らずにはいられない、というおかしなくせを持
        っていて、なるべくキッチン付きの部屋を取るよう
        にしている。“三年むらさき”はいろいろな国へ行
        き、ある時はシャコのオバケのようなものと出逢い、
        巨大な野菜たちと出逢った。強烈な個性を放つ食材
        を前にして“三年むらさき”は決して動じない(?)。
        慌てず騒がず自分の仕事をする。なんて頼もしいん
        だろう!おかげで全勝だ。
         さて、現在私は、病的なまでに喰いしん坊の夫の
        住むロスアンジェルスと東京とを行ったり来たりの
        生活をしている。当然台所も二つ。もちろんどちら
        の台所にも“三年むらさき”がある。

 

 

シンガー・ソングライター 尾崎亜美


                                          


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